〜 ナスダック・ニューヨーク証券取引所上場維持・上場後の時価総額と株価を維持する・上場後のIR株主対策 〜

日本企業が米国NASDAQに株式上場を果たした瞬間、祝福のプレスリリースが公表され株価は上場初日に2倍、3倍になることがある。しかしJapan Corporate Advisoryが見てきた多くの日本企業の米国上場のケースでは、上場後数ヶ月以内にその株価は上場価格を大きく下回っている。平均的に7割から95%程度まで暴落している企業が殆どである。暴落し、再生が困難なまま上場廃止になるケースも少なくない。
何故そうなるのか?何をすれば暴落は防げるのか?
この記事では、日本企業が上場後に直面する現実と、上場維持基準の具体的な数字、そしてJCAが実際の支援を通じて学んだことを率直に書く。

なぜ上場直後に株価が急落するのか

NASDAQ上場直後に仮に株価が上昇をしたとしてもそれは「IPO初期の投機的需要」によるもでしかない。
株主数: IPO時に短期売買を目的とした個人投資家が一斉に購入し、数日から数週間で売り抜ける。こうした動きが落ち着いたとき、残るのは実態を反映した株価だ。
NASDAQ上場時の規定で、IPO時には一定数の株主を必要としている。上場基準によって
違いはあるものの400から550名義である。これらの投資家(Day Traderが主)は小粒IPOとして常にお小遣い稼ぎをしている。上場直後から数週間で売り抜けるのが大半である。市場でBID (買い値)を出す側はMARKET MAKERのみで、彼らも場(株取引の板)を維持するために株式を保有すれば損を被るケースである。本来の市場での買い手が存在しない為に株価は底なしの状態が続くという事である。
機関投資家:多くの日本企業はIPO時に大半の資金出資者である機関投資家と十分な関係を築けていないまま上場を迎える。企業は殆どのケースで上場時の資金調達や資本戦略はコンサルタントと主幹事証券会社に任せ、出資者と接触する事もない。期間投資家は博打案件として主要運用資金の端数的で博打投資を行う。会社の業績や戦略などを分析する投資家は稀で、上場後の株価のみを見ながら売却をするのである。決して買い手には回らない。
ロックアップ期間:さらに追い打ちをかけるのが取引ロックアップ期間の終了だ。上場前から株を保有していたインサイダーや初期投資家は、通常180日間は株式市場での売買を制限されている。この期間が過ぎると売り圧力が一気に増し、株価が崩れるケースが多い。
チャートを見ても一目瞭然とわかる。

NASDAQ上場維持基準を把握すること — 知らないと廃止になる数字

NASDAQには上場を続けるための条件(維持基準)がある。満たせなければ基準未達通知が届き、最終的には上場廃止になる。
NASDAQには3つの市場区分(グローバルセレクト、グローバル・マーケット、キャピタル・マーケット)があり、維持基準の細目は区分と選択する基準セットによって異なるが、考え方は共通だ。代表的な数字を挙げる。

基準項目 数値(代表例) 補足
最低株価
(入札価格)
1ドル以上 全市場区分に共通。最も多くの企業が直面する
時価総額 区分・基準セットによる(例: 5,000万ドル以上) 例外規定あり
株主資本 区分・基準セットによる(例: 1,000万ドル以上) 純資産基準を選択する場合
株主数(ラウンドロット) 400名以上 100株以上の保有者

中でも最低株価「1ドル」割れ規定は、日本の中堅企業がNASDAQ上場後に最初にぶつかる壁になりやすい。区分ごとの細かい数字よりも先に、この1ドルの仕組みを理解しておくべきだ。
株式市場での取引価格が$1をある一定期間続くと、NASDAQやニューヨーク証券取引所から
上場廃止のリスクの通達が届く。株価を上げる為に株価逆分割リバーススプリットをするケースが目立つが、この手法は時間稼ぎに過ぎない。(株価逆分割:(例)株価を倍にあげて発行株数を半減させる手法)1―2ヶ月もすれば分割前の時価総額を下回るケースが殆どである。リバーススプリットは万能薬ではない。併合で株価の数字は上がるが、企業価値が変わらなければ時価総額はそのままで、売り圧力が続けば再び1ドルに近づく。市場に分割後の事業戦略を浸透させる事ができなければ “見捨て売り”が続くのである。近年は安易な併合の繰り返しに対する取引所・SECの目も厳しくなっている。

1ドルを割ってから上場廃止までの時間軸

株価が30営業日連続で1ドルを下回ると、NASDAQから「Deficiency Notice(基準未達通知)」が届く。ここから時計が動き始める。

段階 期間 起きること
基準未達の認定 30営業日連続で1ドル未満 NASDAQから通知が届く
第1の猶予期間 180日以内 1ドル以上を10営業日連続で維持できれば解消
追加の猶予(条件付き) さらに180日 区分・他基準の充足など条件を満たす場合のみ
最終段階 — 聴聞会を経て上場廃止手続きへ

180日は長いようで短い。株価回復の手を打ちながら、同時に投資家との対話、IRの強化、場合によっては株式併合(リバーススプリット)の検討まで、やることが山積みになる。
そしてリバーススプリットは万能薬ではない。併合で株価の数字は上がるが、企業価値が変わらなければ時価総額はそのままで、売り圧力が続けば再び1ドルに近づく。近年は安易な併合の繰り返しに対する取引所の目も厳しくなっている。

NASDAQ・NYSE上場後のすべき活動

殆どのケースで上場後、間違いなく株価・時価総額は暴落している。上場時の株価と会社価値の計算と相場感を取り違えて上場をしているのである。そのレビューをする事が重要である。
実態の時価総額・株価の見直し、株主の入れ替え、市場との対話を見直すべきである。弊社で行うレビューの方法案をご紹介したい。

1)流動性:
日本企業の米国NASDAQ/NYSE上場時に放出する株式の割合は20%-30%が大半である。残りの大半が創業者・創業家・役員であるケースが殆ど。この放出比率を時間かけて上げる事である。上場している米国企業の放出割合平均は50%―80%で、90%という会社も存在する。要は、議決権を守りながら上場をする会社に投資をする株主は少ないという事である。

2)株主比率:
グローバル市場で上場を選択した企業はグローバルに会社の実態を曝け出すことを選んだ分である。経営者・創業者(家)・従業員・会社の過去未来・財務・事業内容・経営の思想、等々。弊社がこの10年以上見てきた各日本企業の上場の目論見書(F1,S1)を拝読している限り雛形の目論見書に名前や数字を入れ替えただけの申請書が目立つ。どのようなか株主、国籍、数、でその割合、その方々への説明をする会合・ロードショーをすべきである。最初は少数相手でもでも構わない。根気よく会社の実態と将来を説明すべきである。自社で株価の方針、想定の時価総額像を常に持ち続けるべきである。

上記2点は専門家・証券会社(上場時の引受証券会社は変えるべきである)の支援は欠かせない。

3)経営者の考えのレビュー:
上場後の相談で弊社がレビュ―を行っている企業は日本市場特有の企業で、米国や欧州市場に進出している会社は多くない。ADS(外国株式として米国市場で取引を行っている会社)のIR対策支援を致しているクライアント様はすべてGLOBAL企業であるが故、米国市場での対話、株式対策の効果は出やすい。
海外投資家は日本で企業がどのように存続しているのかが、全く把握できない面が多いので、(例)事業の初歩的な説明・ビジネスモデル、経営者の経営哲学、事業市場の説明等を繰り返す、初歩IRセミナー・PR会等に参加をすべきである。そこには既存機関投資家、既存小口株主を招待すべきである。相対で株主・取引先等にIR活動を継続する事は重要であるが、その戦略立案を堅実に組み立てること。

注意点:
上場後のIR支援のノウハウがない。IR活動方針を見誤る。
広告宣伝をする事でIRを行っていると勘違いし株価が上がると会社幹部が担当者・専門家に説得されている点。専門家と称する方の誤ったアドバイスを聞いている点である。日系企業の米国上場は大株主との対話、信頼が全てである。個人株主も重要ではあるが、纏まった株を保有している第三者の信頼を得る事が何よりも重要である。日本国内の上場企業IR・PR専門会社では適任でないケースが多い。

JCAが支援してきたケースから

JCAがこれまで関わってきた上場企業の中に、上場直後から株価が想定を大きく下回り、Deficiency Noticeを受け取ったケースがある。
そのとき最初に確認したのは「誰が株を保有しているか」だった。機関投資家の保有比率が低く、流動性の乏しい個人投資家が中心の株主構成では、株価の下支えが難しい。IRの情報発信を英語に統一し、米国の小型株専門のアナリストや投資家向け広報(IR)会社と連携する体制を整えることから始めた。
もう一つ重要だったのは、経営陣が定期的に米国の投資家と直接対話する機会を作ることであった。日本の経営者は「業績が良ければ株価はついてくる」と考えがちだが、米国の小型株市場では「業績が良いこと」と「それが投資家に届いていること」は別の話だ。

上場後1年間にやるべきこと

上場後の1年間は、次の3点を軸に動くことを勧めている。

1. IR体制の整備(上場直後〜3ヶ月)
英語によるプレスリリース・決算説明資料の発信、米国投資家向けのウェブサイト整備、IRの方針の明確化。この時期に手を打てるかどうかで、その後の株主構成が大きく変わる。

2. 機関投資家とのリレーション構築(3〜6ヶ月)
小型株に特化したファンドやアナリストへのアプローチ。NASDAQのIRイベントや個別ミーティングを通じて、「この会社を長期保有する理由」を伝え続ける作業だ。一朝一夕にはいかないが、これをやった企業とやらなかった企業の株価推移は、1年後に明確な差として現れる。

3. 上場維持基準のモニタリング(通年)
株価、時価総額、株主数を毎月確認し、基準に近づいた場合の対応策をあらかじめ検討しておく。Deficiency Noticeが届いてから動き始めるのでは遅い。

よくある質問

Q. 株価が1ドルを一度でも割ったら通知が来るのか?
A. 来ない。30営業日連続で1ドルを下回った場合に基準未達と認定される。一時的な下落だけでは手続きは始まらないが、1ドル近辺で推移している時点で対策を始めるべきだ。

Q. 通知が届いたら、すぐ上場廃止になるのか?
A. ならない。180日の猶予期間があり、その間に10営業日連続で1ドル以上を維持すれば解消される。条件を満たせば追加の猶予が認められる場合もある。ただし猶予期間は「対策を打つための時間」であり、放置すれば確実に廃止に向かう。

Q. 上場廃止になった日本企業は実際にあるのか?
A. ある。近年も基準を維持できず廃止に至る日系企業が出ている。詳しくは[ナスダック・ニューヨーク証券取引所での上場を廃止する日系企業]にて。

上場後のIR・株価対策について、JCAにご相談ください

Japan Corporate Advisoryは、米国上場の準備段階から上場後のIR・株価維持・上場廃止危機への対応まで、一貫して支援しています。「上場は目的ではなく通過点」という考えのもと、上場後の企業価値向上に向けた実務的なアドバイスを提供しています。
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