米国で登記していなくても課税?PE(恒久的施設)リスクと税務調査
〜 現地法人・支店登記・登記なし(輸出・ウェブ取引)、各税務申告の義務と税務調査(監査)リスク 〜
Contents
- 1 米国で既に登記をしている企業は2パターン:
- 2 米国に登記をしていない日本企業の米国事業はこの3つのパターンが大半:
- 3 拠点の登記(現地法人・本社の米国での州登録)と課税の有無とは別の関係:
- 4 連邦政府の対象とする『PE(恒久的施設)の概念』とは何か:
- 5 現地法人・支店登記・登記をしていない3つの形態の違い:
- 6 PE(Permanent Establishment / 恒久的施設)の判断が困難、専門家の説明は異なる 〜保護的申告(Protective Return)とForm8833の申告〜
- 7 税務調査・IRSはPE(Permanent Establishment / 恒久的施設)の監査情報をどのように得ているのか
- 8 Q&A ケース事例
米国で既に登記をしている企業は2パターン:
1 現地法人:本社(日本法人)の子会社として米国の州に法人を登記(本社とは別の米国法人)。
2 支店登記:本社(日本法人)が米国のとある州で事業を行う登記(支店は本社の一部)。
双方の場合、米国に於ける事業は全て現地法人・支店が行う為の登記であり、現地法人の場合、本社は米国で納税・税務申告をすることはない。支店の場合は、支店は本社の一部である為、支店に帰属する利益を本社が米国で申告・納税する。(上記のケースによっては、米国拠点は本社が米国で直接商売をする支援拠点である場合もあり、その場合は本社も納税・税務申告が必要となるケースもある)
米国に登記をしていない日本企業の米国事業はこの3つのパターンが大半:
- 「日本の本社から米国に輸出をしている」
- 「米国の顧客にはwebsiteオンラインウェブで直接販売している」
- 「出張ベースで営業、米国顧客との契約は日本本社とで締結」
しかし、米国で会社・支店登記していない=米国の税金は関係ない。とはならない。
米国での税務申告義務・課税は登記の有無で決まるのではない点を注意したい。『米国で事業を行っているか(Engaged in a trade or business in the United States)』、そして日米租税条約でいう『PE(Permanent Establishment / 恒久的施設)が米国にあるか』で決まる。登記と課税とでは別の判断なのである。現地法人・支店登記・登記なしの3つの登記・商流について米国での申告の義務とPEのリスク、そして税務調査(監査)で何が起きるかを説明します。
拠点の登記(現地法人・本社の米国での州登録)と課税の有無とは別の関係:
米国で各々登記をするのは各州政府に届出を出す。登記時にIRS(Internal Revenue Serviceアメリカ合衆国内国歳入庁)よりEIN(Employer Identification Number納税者番号)を取得し申告。各州は登記時に納税者番号が割り当てられる。
逆に登記をしていないという理由で納税が不要とはならず、米国で事業を行っていれば、日本の法人は外国法人として米国の法人税の申告義務(Form 1120-F)の対象になる場合がある。故、米国で登記をしていない日本企業は必要に応じて日本より米国のEIN連邦納税者番号や州納税者番号、州消費税局納税登録や取得を経て納税申告が必要となる。
連邦政府の対象とする『PE(恒久的施設)の概念』とは何か:
PE(恒久的施設)の概念は原則として2国間租税条約(日米租税条約)に基づいて適用。
租税条約は連邦税(連邦法人税)に対して結ばれているものであり、原則として州税には直接適用されない。(州は別途の概念NEXUSが適用され、州税は日米間の条約はなく適用はされない)日米租税条約では、日本の会社の事業の利益は、米国内のPEに帰属する部分だけが米国で課税される。PE(恒久的施設)にあたるのは大きくこの3つである。
1 固定的な施設・拠点:支店、事務所、工場、作業場、倉庫 等、事業を行う実質的場所。
2 一定の期間を超える建物、建設・据付工事の現場。
3 従属代理人:日本の会社の名前で契約を結ぶ権限を持ち、それを常習的に行使している人や会社。 社員である必要はない。
逆にPEにあたらないものとして、『商品の保管・展示・引渡しのためだけの在庫や施設』、『商品の購入や情報収集のためだけの施設』、そして『自分の通常の業務として複数の会社の商品を扱う独立代理人(ディストリビューター・ブローカー)』とされる。
ここで注意すべきは、『支店登記=PE』『登記なし=PEなし』ではない点である。また、上記でPEにあたらないとされる商品の保管・展示・引き渡しの為の在庫であっても、その扱い、判断、指示の系統・扱い次第ではPEと判断されるケースがあるという点。
IRS: 日米租税条約 第5条(恒久的施設)・第7条(事業利益)・第2条(対象税目=連邦所得税)
https://www.irs.gov/businesses/international-businesses/japan-tax-treaty-documents
財務省: 日米租税条約
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/tax_convetion_list_jp.html
現地法人・支店登記・登記をしていない3つの形態の違い:
1 現地法人(子会社)
日本本社の米国法人であるから本社のPEではなく、子会社自身が米国の法人として申告・納税をする。またその現地法人・本社から登記州以外の州でも取引・商流が発生する場合は州のNEXUS(企業と特定の州との間にある「課税上の十分なつながり」(接点))が発生する為、登記州以外の州でも別途登記は必要となる。
本社の社員が現地法人の事務所を使って本社名義の契約を取る、子会社が本社の専属の代理人として契約を結ぶ、という運営をすると、『本社のPE』が子会社の中にできる。本社と子会社の取引価格(移転価格)も含め、本社と子会社の役割分担を明確にしておく必要がある。
2 支店登記
支店は日本の本社の一部であり、州に登記した固定的な施設である。原則としてPEになり、本社は支店に帰属する利益を米国で申告する。支店の活動が調査・連絡のみなら「準備的・補助的」としてPEにあたらない余地はあるが、営業活動に踏み込んだ時点で、その主張は通らなくなる。
3 登記をせず米国で事業を行う(在庫保管・輸出・オンライン/ウェブ取引)
米国に、人も拠点も無く日本から輸出・ウェブ(オンライン取引)(在庫を米国内に保管等)で売っているだけなら、PEはなく、条約によって事業の利益は米国で課税されない。ただ、その活動内容、売上規模、消費税形態・契約内容によっては納税申告の義務が発生するケースはあるので注意である。
・活動内容:(例)米国内で保管している在庫を日本からリモートで出荷、発送しているケース。出荷・在庫の管理を誰の判断で決断をしているか?現地の代理人・AGENT等に判断を任せている際はPEがあると判断されるケースがある。
・本社からの米国出張者が国内で商談をまとめ、実質的に契約を決めている → 契約の署名を日本で行っていても、従属代理人として扱われ、PEと判断されるケース。
・据付・保守・研修のために技術者が長期間滞在する → 固定的な施設・工事現場の議論になる
・現地の個人や元社員に「業務委託」で専属の営業を任せる → 一社専属で本社名義の契約を結ぶ代理人は、PEと判定されるケース。
登記をしていないから安全なのではなく、登記をしていないから『誰も申告していない』状態になっている。これが、登記なしで米国事業を行うリスクの懸念を考えるべきである。
PE(Permanent Establishment / 恒久的施設)の判断が困難、専門家の説明は異なる 〜保護的申告(Protective Return)とForm8833の申告〜
監査法人・弁護士・会計士、専門家等の助言は常に異なり、誰もリスクを取るような助言はしない。国税が取るスタンスや税務監査対応の経験を積み上げている専門家は少ない。またIRS国税が、PE判断の下、課税判決をした際の対処法、異議申し立て訴訟で勝訴した担当者も少ない。 PEリスクが伴う商流に関わる際には保護的な事前申告手法が存在する。米国で事業を行っている(またはその疑いがある)外国法人は、Form 1120-Fに条約に基づく届出(Form 8833)を付け、『条約により課税されない』という立場を申告する。保護的申告(Protective Return)とForm8833の申告である。
ただ、この保護的申告(Protective Return)自体が ”弊社はリスクを伴い税務申告を米国内でしていない取引をしています“ という開示申告でもある事には注意を払いたい。
保護的申告(Protective Return)は、後にIRSがPEありと判断しても、経費の控除や税額控除を受けて、純利益に対する課税で済む。申告をせず後にPEと判断された場合:
1 経費の控除・税額控除が認められない。売上(総収入)に対して課税される余地がある。
2 申告をしていない年度は、課税の時効(通常は申告から3年)が進まない。何年分でも遡って課税されうる。
3 無申告・納付遅延の加算税と利息が加わる。
申告の義務のある年度に申告をしていない、という事実そのものが、税務調査で最初に指摘される。
IRS: Form 1120-F の申告義務、保護的申告(Protective Return)
https://www.irs.gov/instructions/i1120f
IRS: Form 8833
https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-8833
税務調査・IRSはPE(Permanent Establishment / 恒久的施設)の監査情報をどのように得ているのか
米国に拠点もなく登記をしていない企業に米国連邦税務監査官(IRS)がどのように調査、監査が入るのかは疑問である。弊社で連絡が入ったケースを交えてその可能性を挙げる。
・取引先・顧客情報:米国企業は原則取引先の情報の保管義務がある。米国の取引先・子会社が税務申告をした際や税務調査を受け、日本企業との取引が調べられる
・米国での『通関・輸入(Customs & Import)』米国への貨物(商業貨物・商品)の輸入手続所である米国税関・国境警備局(CBP: Customs and Border Protection)=>ケースとしては最も多く見られる。
・内部通報や情報:日本・米国で働く社員やそのビザ、給与、社会保障番号情報
・州の税務当局(消費税・売上税・登記)の調査から連邦に波及
Q&A ケース事例
Q1 登記も申告もしていなかった日本企業が、後から米国の税務の問題に直面した例:
事例1:米国で支店や現地法人登記をせず、現地で本社より雇用(第三者の雇用代行会社を通じて)をした人員と関係が築けず、その方が弁護士を通じて告発をしたケース。労働局・税務局・移民局とあらゆるリスクのある機関に通報。その後にIRSが本社に連絡。幸いPE問題とはされなかったものの、労働局に登録・現地雇用をするように担当官から助言を受ける。
米国は雇用を重要視している国です。雇用をせず、源泉税を払わないで事業を行うことに重点を置いている姿勢があります。
事例2:米国に高価な機材サンプルを保管。クライアントに紹介・米国内展示会に移送して活用。本社より出張者が定期的に出張ベースで本社名義で米国企業と契約受注、その後は本社から米国顧客へ販売・発送。(恐らく)CBP米国の通関業機関より情報を入手、発送先を税務局が突き止め輸入IMPORTER名義社の登録住所に連絡、監査が入る。Protective Returnは申告しておらず、過去3年間の契約受注額面の全売上に対して(経費は差し引かれず)課税となったケース。
Q2 支店登記・登記なしの会社で、PEの議論になりやすい活動(出張営業・在庫・技術者の滞在など、実際に多いもの)
事例1:米国で登記(米国内でのEffectively Connected Income: ECIの税務申告をせず)をせず本社名義で事務所を借り、出張者が(ビザ無・Bビザ取得者等が)頻繁に出入国を繰り返し、その事務所を拠点に様々な活動をしていた。当初は移民局の監査官が抜き打ち検査に入り、滞在者の就労・滞在ステータスに監査が入り問題となった。(関係性は確認できないが)その後、突然IRS(内国歳入庁)よりその企業の活動監査調査依頼が入る。課税対象(Effectively Connected Income: ECI)の内容を数ヶ月に渡り調査される。過去に遡る申告の義務と課徴金を言い渡された。
事例2:米国に在庫を保管。米国では代理人会社や倉庫会社と契約をしていて、受発注・出荷の指示は原則本社より行なっていた。米国企業は取引先の情報を入手・保管する義務がある。米国連邦税務局(IRS)は米国に登記をせず米国内で事業を行う企業調査・監査をする先として、港の公安局・通関業者がその的となりやすい。米国連邦税務局(IRS)は規模や取引額が大きい取引を中心とするが、抜き打ち検査は小規模貿易でも入る可能性は多いように見受けられる。通関書類を事前に調査、保持し監査に入られたケース。
Q3 「保護的申告をしておくべきか」と相談された際の判断、JCAのお勧め案
日本では『コスパ』、『費用対効果』等の言葉が企業内で良く聞かれます。米国内でのPEに関わるリスクがある企業は、登記をすることを最優先にお勧めいたします。コスパでは無く、米国で商売・取引をする以上は税金を如何に払わないか?と言う議論では無く正当な申告と税金を納税することをお勧めします。勿論、全くリスクがないと判断する場合は別です。その次は事前の保護的申告をすることが保護にはなります。
繰り返しになりますが、リスクがあると気付き、事前の保護的申告(Form 1120-Fと(Form 8833))申告をすること自体、リスクがありそのリスク開示をすることになります。Form 8833には具体的な取引・契約・商流の説明をする項目もあります。その用紙を米国連邦税務局(IRS)が受領し担当官は監査をするか否かの判断をする事となるのと同然です。
IRS: https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-8833
ですので、保護申告は最悪のリスクを防御する為であり、その商流や取引開示情報に誤りや、開示内容を怠った場合3年では無く『悪意があると判断され』さらに過去に遡り調査・罰則が及ぶケースもあります。

